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愛はどこにでも BBC Oneのチャンネル・アイデント(チャンネル番号表示)の「Love 2013」シリーズで、ロンドンのデザイン・エージェンシーのVincentは、Cinema 4Dの豊富なMoGraphツールセットに頼りました。

イギリスの公共放送局BBCのチャンネル・アイデントの歴史は豊かで、1950年代にまでさかのぼります。BBC Oneの長年にわたるトレードマークは地球儀です。最初は機械的な模型と鏡を使って作られていましたが、その後1980年代中期にはCGを使用して作られました。1990年代以降は熱気球とダンサーがたわむれていましたが、その後、円形のモチーフは2006年に再登場し、凧の輪、ミステリーサークル、泳ぐカバの隊列などのシリーズとなりました。「Circles(円、輪)」というタイトルのこのシリーズは、昔のBBCの地球儀に同調すると同時に、統一の象徴としての「O」を表しています。

これらのアイデントを担当した会社はRed Bee Mediaという、ロンドンに拠点を置き、ヨーロッパ各地およびオーストラリアに支社を置くメディア・マネージメント・カンパニーです。進行中の「Love 2013」のテーマを引き続き春季計画でも行うため、同社はロンドンの中心にあるデザイン・エージェンシーのVincentに頼りました。Vincentの仕事は多岐にわたっており、ビデオ・ゲームの映画製作技術から、ブランド・アイデント、TVショーのイントロ、さらには「プロメテウス」や「慰めの報酬」のビジュアル・エフェクトにまでおよびます。「私たちは、プロジェクトの監督、脚本、デザイン、アニメーション、制作をすべて社内でこなします」とディレクターのJohn Hillは説明します。「私たちは非常に現場主義で、実写映画の監督、VFX、ブランド設定、アート・ディレクション、デザイン、2D/3Dアニメーション、脚本を含む多くの分野で豊富な経験があります」

Vincentのチームは、サークルというテーマを文字通りの意味で使用することにしました。ピンクッションに動きを与え、一連のチューブを配置し、振付けて、円を描くパターンのなめらかな動きを実現しました。その結果は写真のようにリアルでもあり、抽象的でもありましたが、一見単純に見えるこのプロジェクトは、完成までにゆうに4週間を要しました。最初にポリゴンの数について質問すると、ディレクターのJohn Hillは一言、「膨大」と答えました。次に、どのようなツールや手法を使ったのかと尋ねると、彼は「忍耐」と答えました。

このプロジェクトは、12コアMacワークステーションでCinema 4D R14を走らせる4人のチームが扱いました。予想通り、MoGraphツール、とくにさまざまなエフェクタと組み合わせたクローナーが、このシーケンス制作の鍵になりました。「ピンクッションは、クローナーオブジェクトを使用して作りました」とHillは説明します。「一連のエフェクタで高さ、幅、色をコントロールしました。シェーダエフェクタでは、ピンの高さと色の変化のほとんどをコントロールしました。継承では、選択したグループのクローン内で、多くのオフセット・アニメーションをコントロールしました。ランダムエフェクタは、全体的なタイミングと周辺のピンのランダムな高さを補正するために用いられました」

Hillは、プロジェクトで継承エフェクタが果たした役割を強調します。「アニメ化されたクローンの各グループ内で、タイミングを補正するのに非常に便利でした。シェーダエフェクタと組み合わせて、高さと色をコントロールしました」

アイデントの全体構造は、クローナーとエフェクタを使用して動きを自動化しており、比較的わかりやすいですが、ジオメトリの純然たる量から、タイミングをプレビューするためにシーケンスをビジュアル化することは、ほぼ不可能とわかります。「シーン・データは大規模で、オンザフライで見ることはほぼ不可能でした」と、Hillは説明します。「だから、私たちは単純に、このアニメーションがどのように見えるか、前もって頭の中に描いて視覚化あるいは予測したのです」

ペースを上げるために、チームはレイヤーを使って一定のピンを選択してグループ化し、それからそれらを個別に表示して微調整しました。「私たちは、まず正確なタイミングとフローを実現するためにハードウェア・プレビューでレンダーして、その後でより包括的なプレビューのためにキャッシュした低解像度のMoGraphレンダーを使用しました」とHillは付け加えました。彼らの望む特殊な見え方を実現するために、その後、チームはXPressoを使用して、特殊な目立った動きをするそれらのクローンのグループをコントロールしました。

しかし、小さな花が正確なタイミングで花開くように、すべてを自動化できたわけではありません。「それは少し難しかった」とHillは認めます。「アニメーションにランダムなタイミングを作るのはやさしいのですが、合図に合わせたり順序どおりにするのは、とても難しいのです。私たちはこれを手作業で、キーフレーム処理をして、ほとんどの時間は継承エフェクタを使用して行ないました」

このアニメーションは、8台のレンダー・クライアントから成るVincentの社内レンダー・ファームのグローバルイルミネーションを使用してレンダリングされました。「一部のシーケンスはフィジカルレンダー・エンジンで、一部は標準レンダー・エンジンでレンダリングしました」とHillは言います。「スピードの点では標準レンダーの方がすぐれていますが、GIレンダーではあまりよくないので、それらのシーケンスにはPhysical を使用しました。R14のフィジカルは、ノイズを減らすためにサンプリング設定の音量を上げるとかなり遅くなることがあるので、これを時間通りに仕上げるために、レンダリングに多大な労力を必要としました。ほとんどのシーケンスは均等に幅広く照らされていたので、フィジカルレンダーについてはポスト・プロダクションで取り除かなければならないノイズの問題はわずかでした。コンポジットでは、ノイズ削減プラグインが、いつもその役に立ちました」

アイデントはどこを見ても素晴らしいのですが、ピンが微妙に大きくなっていく夜のシーケンスは、とくに印象的です。「私たちは、自然なGIスタイルのライティングを作るには、オブジェクトの中でライトを使用するのが短時間でできる良い次善策だと考えました」とHillはコメントします。「ライトの色と強さをさまざまに変えることも、ライティング全体の雰囲気を細分化するのに非常に役立ちます」

シーケンスのレンダリングが済むと、チームは、Adobe After Effectsで最後の仕上げをしました。Hillは、コンポジットに役立てるために、アニメーションをさまざまなレンダー・パスとしてアウトプットした方法について語りました。「私たちは、とりわけ色の部分をぼかしたり分割したりするのに、アンビエントオクルージョン、拡散、影、スペキュラ、鏡面反射、デプスパスを用いました」と言います。「カメラ・データは、3Dのレンダリング済コンテンツの上に2.5Dのカラー・フィルやグラディエントを加えるのに役立ちました」チームはさまざまなマットをレンダリングしてから2.5Dオーバーレイとしてグラディエント・カラー・ランプをコンポジットしました。「これらは最高の3Dレンダーの効果を発揮して、色の波の間を移行するのに役立ちました」と、Hillは加えました。「しかし、今ではこれもAdobe After Effects CCのCINEWAREプラグインを使えば、簡単にできますね」

このプロジェクトは明らかにVincentとCinema 4Dにかなり無理をさせましたが、Hillはこのアプリケーションを絶賛しています。「重ねて言いますが、Cinema 4Dは、モーション・グラフィックスと創造的なフレキシビリティー全般において、ずば抜けてすぐれた3Dソフトウェアです」と言い、「安定しており、動作が速くて直観的に理解できる」と評しました。しかし、新しいCinema 4D R15なら、このプロジェクトにかかった時間はもっと少なくて済んだでしょう。「レンダリング速度がますます速くなって、ライブ・ネットワーキングができるなんて、素晴らしいですね」とHillは言います。「周辺コンピューターを使用したオンザフライでのプロセスに役立つ機能は、本当にすごい。私たちのワークフローが一段とスピードアップするでしょう」

Vincent London のウェブサイト:
www.vincentlondon.com


Author

Steve JarrattCGマニア/技術ジャーナリスト – イギリス