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火星でのオデッセイ Territory Studioは、ゴールデン・グローブ賞を受賞したリドリー・スコット監督のSFスリラーにおいて、説得力のある組み込みセットをCinema 4Dでどのように作成したのか。

俳優の演技に合わせてインタラクティブに動くスクリーングラフィックスの制作は、ロンドンにあるTerritory Studioの得意とするところです。しかし、これらのスクリーンは科学的に正確か、既存のNASAの技術的観点から首尾一貫されていなければ、全く違う印象になります。この挑戦に挑んだのがTerritory Studioの設立者兼クリエイティブ・ディレクターのデビッド・シェルドンヒックスでした。幸いにも、ジュピターやリドリー・スコットのプロメテウスといったSF大作での経験があったデビッドには、こうした要望に応え、Cinema 4Dを活かすための良いアイデアがありました。

オデッセイの制作には、Territoryのアーティストが7ヶ月かけて、8つのセット全体で約400のスクリーン(管制センターだけでほぼ100スクリーン分)を作成しました。表示とアニメーションは、すべてライブで俳優に合わせて再生され、そのほとんどがインタラクティブでした。

映画は、宇宙飛行士のマーク・ワトニーが遭難するアンディ・ウィアーのベストセラー小説の「火星の人」が原作。20年先の未来でNASAが3度目の火星への有人探査するストーリーです。キーコンセプトは、セットに表示するスクリーンは安易な空想のSFではなく、リアルな科学に合わせるというものでした。そのためTerritoryにとって、デザインを始める前に科学に関するリサーチが必要でした。

「それは途方も無いリサーチになりました。NASAの太陽系探査のプログラム管理のデイブ・レイバリーから提供された管制センターとJPLの参考写真や車両概略図、パスファインダー通信の使用まで詳細に調べました。さらに、NASAがどのようにメッセージの受信と解読もありました。そして、NASAでは現在のテクノロジーより常に一歩先を行っているということ知って、それを再現する方法を考えなければなりませんでした。つまり、彼らが今何をテストしていて、何が開発には着手していないかを考える必要があったのです。まるでロケット工学や宇宙探査の短期集中コースのようでした。しかし、間違いなく面白かったですし、やりがいも理解もできました」(デビッド談)

アートディレクターのマーティ・ロマンスは、皆の学習曲線について言及しました。「私は非常に沢山のことを学び、こんなに働いたのは今回のプロジェクト以前では考えられませんでした。たとえば、材質を知るためにカメラからレーザーを照射して、光の反応を解析します。すべてのものが本物と同じように働くように取り組むのは大きなチャレンジでした」

3Dのリーダーであるペーター・エッゼニィは、何をすべきだったかを話してくれました。「私の役割は、レンダリングとアニメーションをセットのスクリーンで使えるようにするための3Dプレートのデザインと送出でした。最初は、異なる照明の条件と状態の火星でのHABの位置を表すルックとアニメーションの作成という任務でした。映画の見せ場の1つで、NASAが衛星画像に写ったソーラーパネルが掃除されていることから、ワトニーの生存を知るシーンです。最初は、HABの周りを巨大な嵐が広がっていく様子、火星のさまざまエリアを探索するローバー、パスファインダーが火星の表面に照射したビームから生成した画像、発射シミュレーション、ジャガイモ、土壌サンプルなどいろいろな3Dエレメントを作成しました」

チームでは、Sketch and Toonと標準のセルレンダーをワイヤーフレームメッシュのために使いました。ジャガイモの表示や土壌サンプルのスクリーン、砂嵐は、X-Particlesと標準レンダラーを使いました。

最もやりがいがあったものの1つは、NASAの管制センターのセットでした。というのも、リアルでありながら、少し未来的な設定である必要がありました。デビッド・シェルドンヒックスは、Territoryがどのようなアプローチをとったか次のように述べています。「現在のデータ記法に忠実であることが依頼だったので、デイブ・レイバリーが送てくるすべてのスクリーンを研究しなければなりませんでした。私たちは、どのデータが優先され、いつどのように管制センターでまとめられ表示され、クルーがどのように扱うのかを学びました。どんなコマンドが与えられ、それが表示されるデータへの反応も含まれます。私たちは、20年後にどのように進化していくかもNASAと話しました。リサーチ完了後、ほんとうに必要なデータとNASAの現在の管制センターの魂に沿ったビジュアル言語を作成しました。背景に黒と紺色で、白いフォントとライトブルーのインジケータを選び、赤はミッションで重要なデータのハイライトと渓谷ステータスの表示に使いました。インターフェイスの全体の見た目は、シリアスで権威的ですが、情報の階層ははっきりと読みやすく、ストーリーと強く結びついています」

スクリーンに表示される地形の場所は、ストーリーに密接しているため、実際の地形を表示しないと技術的にも科学的にも食い違ってしまいます。それを作成するために、Territoryは、ヨルダン地域の低解像度モデルを入手しました。それは、火星の表面の代用したのです。チームは、このためにDemEarthを使用しました。しかしながら、利用できるデータセットのディテールが十分でなかったので、衛星と現地の写真から再モデリングしました。山はサブポリゴン変位を使用。HAB、ソーラーパネル、ローバーは代替モデルが使用し、プロダクションから提供された高解像度のモデルと差し替えられました。正確な撮影座標と撮影日が知らされていたので、撮影時間帯の正確な照明をセットアップが作成可能でした。X-Particlesは、砂嵐ベースのシミュレーションに使われ、それに加える煙のシミュレーションはTurbulenceFDが使われました。

スクリーンは、俳優が演技するセットにライブで表示されてので、直前での変更は良くありました。たとえば、クレーターのサイズの変更では、当初1km程度でだったものが100kmに変更されました。Cinema 4Dなら、クレーターの再モデリングは簡単で、サイズが決定された段階で、ベースのメッシュにディテールをすばやく追加できました。標準レンダラーが使用され、変更を適用した最終フレームをとても早く作成できました。

プロダクションからのインタラクティブスクリーンに関する要望は、画像シーケンスから、Territoryのセットエンジニア・パートナーであるCompuhireの行っているプログラムまでわたります。表示する画像は現実的なタイムフレームでリフレッシュするようプログラムする必要があり、アニメーションとシミュレーションは、3秒毎に一つの画像に落とすことになりました。他のスクリーンでは、クルーのラップトップや管制センターのコンピュータのタイピングシーンのプログラムが行われました。これにより、俳優が入力した内容に関係なく、正しいメッセージが表示されます。

デビッドが、宇宙船ヘルメスから送った宇宙飛行士のマルティネスが使うMAVシミュレーターのインターフェイスグラフィックスの制作で必要なワークフローを説明してくれました。「すべてAdobe Illustratorでデザインされ、特徴的ないくつかのボタンは、セット上で押される必要がありました。セットでパフォーマンスが出るように、すべてのインタラクティブなボタンをプログラムしました。スクリーンの中央にリモート・コントロールす小物の各場面毎にビジュアライゼーションをレンダリングする必要がありました。MAVのリフト状態の各場面ごとにアニメーションとレンダリングを行い、セットのボタンと連動させました。MAVの3Dレンダリングは、Cinema 4Dを使ったワイヤーフレームパスが使用され、よりリアルな見た目になりました」

すべてのデザインは日中に行われ、レンダリングは3.5GHz・6コアのIntel Macを使ってほとんどの一晩で行われました。

科学漬けだった7ヶ月間の後、3Dのリーダーのペーター・エッゼニィは、こうまとめました。「いつものようにCinema 4Dは、信頼できるツールでした。リドリー・スコットのオデッセイで使われた多数のスクリーンの制作に必要なすべてのオプションを提供してくれました」

Territoryは、オデッセイが、2016年のゴールデン・グローブ賞(カリフォルニア・ロサンゼルスのビバリー・ヒルトンで開催)「映画の部・ミュージカル/コメディ部門」での作品賞受賞を素直に喜びました。この映画ではもう1つの賞を受賞しました。オデッセイの主演のマット・デイモンは、映画の部・ミュージカル/コメディ部門の男優賞を受賞しました。リドリー・スコットは、映画部門監督賞にノミネートされていました。詳しくはこちらをご覧ください: www.goldenglobes.com

より詳しいオデッセイのセットで使われたモニターグラフィックス こちらでもご覧いただけます: www.territorystudio.com


Author

Duncan Evansフリーライター – イギリス