
モーショングラフィックスとVRの新たな可能性「TOKYO LIGHT ODYSSEY」 WOWは、Cinema 4Dを使い新しい映像表現の手法を制作
CMやVIといった広告における多様な映像表現を手がけるビジュアルデザインスタジオのWOWは、長年モーショングラフィックスを追求してきた。その仕事は映像だけでなく、インスタレーションやメーカーと共同で開発するユーザーインターフェイスなど多岐にわたっている。そして彼らが新しいメディアであるVR向けの映像を制作したのが「Tokyo Light Odyssey」だ。この作品は、文化庁メディア芸術祭20周年企画展「New Style New Artist -アーティストたちの新たな流儀」 にて、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)装着による全天球映像体験と直径6メートルのドーム型スクリーンによる2種類の展示が行われた。ドームでの視聴を楽しむ方、HMDでの全天球を楽しむ方、両方を体験してその違いを楽しむ方など、それぞれが思い思いに東京の夜の街をダイナミックにフライスルー感覚を一様に楽しんだ。
同メディア芸術祭で成功を収めたことにより、Media Ambition Tokyo 2017ではメインコンテンツとしても展示。VimeoでもStaff PickやBest of Monthに選ばれるなど、VR映像として大いに注目されている。
この作品は、WOWが20周年を迎えるにあたり、「モーショングラフィックス」を皆で見つめ直して新しい表現を探る「Beyond Motion Graphics」というプロジェクトが始まりだったという。「ドーム型スクリーンやヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)の普及により、これまでは『見る』対象物だったモーショングラフィックスが新しいメディアを通じ『世界』そのものになっていくのではないかと考え、この作品を制作しました」(WOWスタッフ談)
VRは、今までの平面的なモニターよりも没入感が強く、鑑賞者が酔ってしまうことが考えられる。そのため、カメラの回転や速度違いなどのムービーを用意し、HDMでのテストは何度も行われ、酔わない映像への試行錯誤が続いた。「目線の誘導にも注意しました。『360度どこでも見ることができる』ということで、『どこを見ればよいのかわからない』になってしまわないように、暗い宇宙空間を真っ直ぐ進んでいくという明確なルールを決めることで、目線の置き場所を設けました。前半はVR酔い防止と目線の誘導の為にアニメーションを抑えましたが、後半は鑑賞者を飽きさせないように移動速度を上げて狭い場所を通過させてダイナミックな動きにしたり、回転を加えたり工夫をしました」
今回のプロジェクトは、VRに適した映像表現を探る実験だったため、従来のような先に伝えたい内容があって 後からそれに合った映像表現を探っていく形ではなく、映像表現の手法に合わせてストーリー展開を考えていく、という流れで制作したという。
「まず最初に、HMDやドーム型スクリーンを使用した作品のアイデアを社内で募集しました。そこで集まった100近い案の中から面白そうなものを10案ピックアップし、テストムービーを制作しました。そのムービーを試写しながら今回作るものに適した企画を絞り込みストーリーを構築しました。その後、この作品の実制作に参加したいという社内の有志でシーンごとに分担し、それぞれにモデリングからレンダリングまですべて担当してもらい、各自で書き出してもらった映像を繋ぎ合わせて完成させました」
映像の制作には、Cinema 4D R17、3ds Max、After Effects、ANIMAが使われており、はじまり~駅、無数の窓を用いたモーショングラフィックス、東京タワー、ビル群などはモデリングからアニメーション、レンダリングまですべてCinema 4Dで作業が行われた。「後半の惑星シーンではカメラワークをC4Dで作り、その動きをFBXで3ds Maxチームとも共有し、1人のデザイナーにつき1つの星を制作してレンダリングした映像を繋いでいます。C4Dで制作された星もあれば、3ds Maxで制作した星も混在する世界になっています。東京タワーの展望台やビルの中の群衆は、AXYZ Designの群衆作成ソフトのANIMAを使用して作成しています。展望台のモデルをANIMAへ持っていき、そこでレイアウトし、動きをつけて、またC4Dへ返しています。ANIMA pluginがあることでデータ変換せずシームレスに、そのままANIMAデータ読み込むことができ、とても効率良く作業を進めることができました」
MoGraphも大いに活用されている。無数の窓が幾何学的な模様を描きながら出現するシーンでは、C4D上でキーフレームを打たれているのはカメラのみだ。あらかじめ、用意していた数パターンの窓枠のモデルをMoGraphで複製し、シェーダエフェクタにAfter Effectsで製作した動画テクスチャを割り当て出現の動きが作成されている。「C4D上でもエフェクタを多用すれば同じ表現が可能かもしれませんが、移動するカメラと窓枠のアニメーションの気持ちの良い関係性の試行錯誤が必要であった本プロジェクトには不向きでした。またビューポートを切り替えながら360°確認し作業するよりも、動画テクスチャのほうが全体の動きを把握しやすく効率的でした。今後の課題としてはビューポート上で360°視認できるようになってくるとさらに直感的に作業できるかとおもいます。その機能を補うものとしてDeGammaというプラグインがありますが、ちょうどそのような機能です」
制作は、R17がリリースされた後で、新機能のテイクシステムが役に立ったと語る。「カメラ手前を通過するビルの制作にあたりテイクシステムを使うことで、ビューポート上の作業時には不必要なオブジェクトを無効・非表示にして軽い環境にして、レンダリング時にはそれらのオブジェクトを有効・表示にして、作業フェーズによってオブジェクトの状態を簡単操作することができました。それらの状態はテイクシステム内に記憶されているので、オブジェクトごとに操作することなくワンクリックで行き来することができ作業効率は飛躍的に上がりました。また、レンダリング時にもテイクシステムを使うことで一つのシーンで複数のパスを書き出せ、なおかつ、一つのシーンでアニメーションや質感などのパターンも作れることができます。他にも、トークンやマテリアルオーバーライドなど効率化に貢献してくれる魅力的な機能ばかりでした。今では必要不可欠な機能です」
VR用のパノラマレンダリングには、Cineversityで提供されているCV-VRCamプラグインで行われ、編集はSkyBoxというプラグインを使いAfter Effectsで行われた。ドーム型スクリーン用映像はドームの角度や高さによって鑑賞者の目線が変化するため、実際の視聴環境で試写しながら映像の角度や回転の強さを何度も調整が行われた。
Tokyo Light Odyssey
https://vimeo.com/213954770
Art Director / Designer:Nakazi Takuma, Moriwaki Daisuke, Kudo KaoruDesigner:Miyajima Tsutomu, Kojima Kazunori, Makino Shigeru, Sasaki Takuma, Kitabatake Ryo, Takagishi Hiroshi, Tanaka Kenji, Horai MisakiMusic:Marihiko Hara
Beyond Motion Graphics
http://wowlab.net/research/beyond-motiongraphics