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カードから出てくる小さな作業員たち 太陽企画株式会社 (CM制作を中核とした総合映像プロダクション) MRコンテンツ「HOLOBUILDER™」を作る

CM制作を中核とした総合映像プロダクションである太陽企画株式会社は、VR/AR/MRの研究開発を行う株式会社ホロラボと共同で、Microsoft社から発売されたばかりのHoloLensを使用するMRとエンターテインメントを融合したコンテンツとして、「HOLOBUILDER™」を日本でいち早くリリースした。

「HOLOBUILDER™」は、プロダクトが描かれた5枚のカードから1枚と「スタート」と書かれたカードをテーブル上に設置して、それぞれHoloLensで認識すると、「スタート」と書かれたカードから小さな作業員が一斉に出現する。彼らはテーブル上に実際にある本などの障害物を器用に避けながらカードに描かれているビル/カメラ/ケーキ/ペットボトル/船をあっという間に作り上げていく。カードを持ち上げて見ることもでき、プロダクトに頭を近づければビルの中やカメラの中を覗くこともできる。例えばケーキの中を覗くととイチゴをつまみ食いをしている作業員が見える。小さな作業員達のユーモラスな動きと、せっせ とプロダクトを作り上げる懸命さがとても可愛らしくもシュールなコンテンツは、5枚全部のカードを試してみたくなる魅力がある。このMRとエンターテインメントが融合した「HOLOBUILDER™」の企画・演出を担当した伊原氏にお話を伺った。

※ HoloLens(ホロレンズ) 2017年1月にMicrosoft社から発売されたケーブルレスの頭部装着型PC。MR(Mixed Reality:複合現実)技術を使用し、周囲の現実環境を認識、仮想空間に作用させることができるデバイス。

HoloLensとの出会い
「コンテンツ東京」出展用のコンテンツを考えている際に、発売されたばかりの「HoloLens」を知りました。「AR・VR」の先にある「MR」という技術に将来性を感じ、当初まだHoloLensコンテンツは少なかったので自分でエンターテインメントに特化したコンテンツを制作したいと思いました。そして自社開発で終わらせずにビジネスに結びつくようなコンテンツにしようということを始めに決めました。ただHoloLensは視野が狭く、初めて体験する人には操作が難しいという課題があります。お披露目の場が展示会場である以上、多くの方に体験して頂く為には、セッティングから体験終了までシンプルな操作性でストレスフリーが求められました。HoloLensの特徴である「インタラクティブ性」と「空間認識」を“体験する面白さ”へ昇華させるにはどうしたらよいのか?
ヒントを得る為、世の中にあるMRコンテンツをひたすら見て周り情報収集しました。

「HOLOBUILDER™」のアイディア
色々なMRコンテンツの中で特に面白いと感じたのが3Dスキャンした人のモデルにダンスのモーションを当て、それが小人になって目の前のテーブル上で踊るというもの。いろんなコンテンツを体験して面白いと感じた要素を組み合わせたり、引いたりして企画を固めていきました。プロダクトを5種類から1つ選んで、それが作り上げられる構成にしたのはコンテンツを体験した方がプロダクトを自社の商品に置き換えるイメージをしやすくする為です。またコンテンツの体験設計を考える際に「ただ何かを見る」だけのコンテンツにならないよう気をつけました。カードを自分で置いた場所から作業員が出現、テーブル上の障害物を避ける、カードを持ち上げるとプロダクトも一緒に持ち上げられる等、「インタラクティブ性」と「空間認識」の要素を入れ、HoloLensを初めて体験する方でも楽しめ、体験を通じてMixed Realityという技術を知っていただけるような設計を考えました。

「HOLOBUILDER™」コンテンツ作り
アイディアをカタチにする作業は今まで培ってきた映像制作のノウハウを活かすことができました。
HoloLensは搭載メモリーの関係上、表示データに限界があります。オブジェクトは全てローポリで制作する必要があり、モーショングラフィックスの「シンプルなデザインで洗練された動き」を追求する経験が活かせたと思います。今回のコンテンツでは作業員たちのモデリング、(その場での)アニメーションをMayaで制作、そこからデータをFBXでエクスポートし、建設されるプロダクト、建設時の作業員達のランダムな出現はCinema4Dを使用しています。MoGraphはアニメーション設定をした後でもクローナ―の子階層オブジェクトを簡単に入れ替えることが可能なので、トライアンドエラーが重ねられ、デザイン、動き共に面白い表現ができました。ところが、HoloLens用にUnityに出力したらMoGraphのアニメーションが何度試してもうまく出力できず、時間が無いので焦りました。しかしプライオリティを考えると、動きのディティールを追求するより全体の面白さを追求する方が大事なので気持ちを切り替えて、組みあがるアニメーションを単純なものに修正しました。この問題は「HOLOBUILDER™」をリリース後に解決方法が分かったので、次回の作品にはMoGraphの動きを活かしたいです。

HoloLensは表示の限界が10万ポリゴン程度と言われている。表示に負荷をかけ過ぎると動きがカクつくのでFPSを落とさない工夫が必要。小さな作業員はローポリで作成され全部で3種類Unityの設定でランダムに出現させている。基本のデザインはそのままで、カードに描かれているプロダクトごとに作業服の色が変わるようになっている。

伊原氏の野望
僕は常に「面白いもの、新しいものを作りたい」というモチベーションで制作に取り組んでいます。それを実現し、表現の幅を広げる為にCinema4DやUnityを勉強し、HoloLensのコンテンツ制作に取り組みました。企画を考える際にHoloLensのようにデバイスやテクノロジーからインスピレーションを受ける場合もあるので、常に先進技術に触れるようにしておきたいです。「映像」というベースに何を掛け合わせて「新しいもの」を作るかが、今後の自分の課題です。掛け合わせる「係数」を自分の中に増やし、「面白い」アウトプットをしていきたいです。


伊原 亮 氏
太陽企画株式会社
ビジネスデザインセンター R&D Tech.team
ディレクター

www.taiyokikaku.com

MRコンテンツ「HOLOBUILDER™」スタッフ

企画 演出 : 伊原 亮(太陽企画株式会社)
プロデューサー : 大石 暉(太陽企画株式会社)
コーディング : 長峰 慶三(株式会社Jolly stics) 伊藤 武仙(株式会社ホロラボ) 上山 晃弘(株式会社ホロラボ)
キャラモデリング アニメーション :株式会社クロム
サウンドデザイン: 菊池 陽介(有限会社インビジブル・デザインズ・ラボ) 高木 公知(有限会社インビジブル・デザインズ・ラボ)