MTV、8ビットピクセルによるグラフィックスの時代にさかのぼる
ピクセルはモニター上の点です。3Dグラフィックスが導入される前(ピクセルの最も効率的な使い道を慎重に検討しなければならなかった頃)には、貴重な要素でした。その後、320×200ピクセルを上回る解像度が実現可能になると、3Dをゲームに応用しようという動きが強まり、Zaxxon、Marble Madness、Crystal Castlesなどのゲームが登場しました。その後、アイソメトリックゲームの波が到来しました。この頃、若きKay Tennemann氏は、ドイツを分断していた鉄のカーテンの向こうにいました。しかし、Atari STなどによって徐々に台頭しつつあったコンピュータグラフィックスの可能性に興味をかき立てられ、デモ用やデモシーンのイントロ用としてピクセル単位での複雑なグラフィックスを自分で制作するほど積極的に活動していたのです。
さて今日、MTVは、毎年開催するMTV EMA(Europe Music Awards:ヨーロッパ・ミュージック・アワード)の授賞式が全世界の注目イベントであると常に自負しています。音楽業界における最も重要なイベントの1つとしてこの授賞式が世界中に認識されているのは、そのために特別にプロデュースされる、ビデオ、クリップ、トレーラーなどによるところが小さくありません。このため、そうしたクリップのデザインに関するMTVの要求レベルは高いです。キャンペーンのたびにアイデアのヒントを外部に求めたり、さまざまなエージェンシーやデザイナーに独創的なコンセプトを提案するよう求めたりします。こうした提案は、MTV内部での審議を経て、いずれかが採用されます。
Tennemann氏は、2009年のMTV EMAのテーマ映像を提案するようエージェンシーに依頼された1人です。同氏はこの時、他のプロジェクトで忙しかったのですが、ベストを尽くせば名誉を得られると確信したのです。同氏は、コンセプトのビジュアルデザインに、アイソメトリックピクセルを組み立てた世界での経験を直感的に応用しました。そして、リズミカルな音楽のビデオについて、レトロな映像とモダンな映像とを組み合わせ、何とピクセルのようなブロックで構成され、アイソメトリックに整えられた世界全体をデザインしたのです。
最初は無意識でしたが、作業が進むにつれていやが上にもTennemann氏が悟ったことは、旧東ドイツ国民であった時代から自分につきまとい、依然として遍在するテーマ(分断されたドイツのストーリー)の表現に、自分自身のごく個人的なアイデアを当てはめているのだということです。そしてこのクリップは、灰一色のピクセルブロックからなる世界が解放され、喜びあふれる色とりどりの自由な世界に変わったことを賛美する映像となりました。壁が崩壊し、灰色の塊(全体主義)がさまざまな色(個人主義)に屈する様子を表現したものです。
この映像を制作するうえで、Tennemann氏は熟知していたCINEMA 4Dを用いました。そのMoGraphのクローナーオブジェクトと、工夫の凝らされたいくつかのスクリプトとを併用することで、ブロックの色がさまざまに変わったり、ブロックの雲が雲を突き抜けて降り注いだり、(ご想像のとおり)数多くのブロックが無重力下にあるかのように空中を漂うなど、ピクセルブロックの世界を魅力的にアニメートすることができました。
Tennemann氏は以上のすべてを、ブロックで築かれた都市のように見えるアイソメトリックな外観とし、上から90°の角度で映像を記録しました。この表示方法は、まさにかつてのAmigaやAtari STでのそれと同じです。しかし、クリップの制作が進むにつれて、同氏はこの方法をやめ、都市の中を不規則に動き回るような映像としました。この映像のワーキングデザインがエージェンシーに、さらにはMTVに提示されました。それからしばらくの間、他のプロジェクトに精を出していたある日、エージェンシーから同氏に電話がありました。MTVの審議委員が、件のクリップのピッチを気に入り、発注に向けて詳細を打ち合わせるために会いたいというのです。
その後はご存じのとおり、Tennemann氏はMTV EMA 2009のビデオクリップを受注・制作しました。モダンでありながらレトロなこの映像は、新たな流行の牽引役となりましたが、同氏が持ち続けてきたピクセルへの情熱、およびそれを支えたCINEMA 4D抜きにはあり得なかったことは確かです。
参照先
www.parasol-island.com
www.mostyle.tv