2008年9月28日、F1シンガポールグランプリがシンガポール市街地の路上サーキットで開催された。
レッドブル社はPeter Clausen Film & TV社(ドイツ・ミュンヘン)に対し、コーストラックの紹介、すべてのサーキット関連情報、さらにF1史上初めてのナイトレースかつ初のアジアにおける市 街地レースとなる本大会の予告映像を盛り込んだ動画クリップの制作を依頼した。F1レーサーのセバスチャン・ベッテル(スクーデリア・トロ・ロッソ所属) とマーク・ウェバー(レッドブル・レーシング所属)の二人に、新しい市街地サーキットで激しく一対一で競り合うレースを繰り広げてもらうというのが基本的 発想であった。
Peter Clausen Film & TV社はAixSponza Animation and VFX 社(ドイツ・ミュンヘン)を本映像作品の制作パートナーとして選んだ。本作品はすべて3Dで制作された。
実際のサーキットは未完成であるため、撮影は不可能であった。特筆すべきはCGの動画を用いることで、他の方法では不可能な新しいカメラアングルを利用 し、際立った特別な映像スタイルを創り出すことが可能になった点である。フォトリアリスティックなレーシングカーが、人工的に作成された背景の中を駆け抜 ける様子を描くというコンセプトへと発展した。このようにして、F1に不可欠なレースの躍動感を損なうことなく、見る人に対しこの動画のコンセプトを打ち 出した。AixSponza 社は明快であると同時に抽象的で、メタリックかつ様式化された世界を作り上げた。
レイアウトの完成後、2ヶ月でプロジェクト全体を終わらせなければならなかった。3D・構成担当のアーティスト9名がフ ルタイムでプロジェクトに取り組んだ。CINEMA 4D、V-Ray、After Effects、Nukeを使用し、アップルの8 Core Xeon上でプロジェクトの作業全体が進められた。
「2 か月の間にフルHD解像度で約2.5分のすべてのCG動画を制作するのは、私たちには少々骨の折れる作業だった。特に、レーシングカーをフォトリアリス ティックに描き出し、メタリックな世界に反射光をうっすらと大量に映し出すのが困難な作業だった」と語るのは、AixSponza 社の制作部長兼常務取締役マニュエル・カサソーラ・メルクル氏である。「使用するソフトウェアツールについて慎重に考える必要があった。CINEMA 4DとV-Rayを使用するという決断はまさに正解だった」と言う。
第 一に、レッドブルのレースカー、RB4をCINEMA 4Dに取り込む必要があった。幸い、レッドブル側がレースカーのオリジナルCADデータを提供してくれた。McNeel社のRhinocerosを利用 し、レースカーを様々な解像度に合わせてポリゴンに変換した(そのためには、NURBSを使用し一部欠けている部品を設計し直す必要があった)。ロング・ ショット用の低解像度モデル、中解像度モデル、および拡大図表示用の非常に細かいメッシュを用意した。これらのモデルはWavefront社のOBJ形式 でCINEMA 4Dにインポートされ、これによりNURBSの通常の情報を保存し、完璧な陰影表示を保証することができる。その後、若干複雑なXpressoの数式を用 いて画像が整えられ、各アーティストがプロジェクト作業実施中にも各々で使用できる、いわばデジタルカーのアセットが作り出された。CINEMA 4DのXref機能により、手動で車を交換することなく様々な作業(動画作成、シーンの設定、ファイナルレンダリングなど)や撮影の種類に合わせて解像度 を容易に切り替えることが可能となった。
一方、シンガポールの特徴的な約120軒の建物を手作業で細分化しながら設計し、シンガポールの中心街に見えるよう調整 を加えた。市販の模型を使用することは考えなかった。金属面上に構築されているのみならず、本物の鋼板製に見える型を使用するという視覚スタイルを打ち出 したからである。各建物の設計には多くの労力が費やされた。問題は鋼板の厚さだった。遠景でも常に本物らしく見えるような調整が必要であった。解像度に関 わらず厚さの特性を映し出せるように、CINEMA 4DのCloth NURBSおよびその厚さ調整機能を幅広く使用した。こうしてCINEMA 4Dの建築設計手順の特性により問題を解決することができた。
そ の複雑さゆえに、周囲全体を単一の非常に大きな模型としてレーストラックを設計することは考慮しなかった。しかし、場面ごとに設計するとなると、ひとつひ とつの場面を最初から作らなければならなくなる。タイトスケジュールゆえにそれは不可能だったため、「レーストラック建設キット」を作るという手順を採用 した。第一に、トラック本体および必要なすべての施設が単一の物体として制作された。モデルおよびテクスチャはCINEMA 4Dで作成、MoGraphおよび専用のプラグインを使用して自動生成セットアップファイルが作成された。これにより、様々な撮影場面で若干の修正を加え るだけで基本的にトラックを使いまわすことが可能となった。
動 画作成に必要なあらゆるアセットの作成が進んでいた頃、監督ペーター・クラウゼンおよびアニメーション制作チームが動画本体の制作に取り組んでいた。各フ レームおよびあらすじの作成に関する基本的なアイディアを画像で表現した大まかなストーリーボードの制作が終わると、アニマティックスの作業が始まった。 撮影シーンごとに様々な動画が制作され、その動画を評価し、大まかな編集が行われた。さらに何度も手直しされた。このプロセスを経た後、動画の最終版が出 来上がり、制作プロセス全体で参考資料としての役割を果たした。
本プロジェクトの大きな懸念材料のひとつに、レンダリングの作業があった。数々の効果をレンダリングエンジンで処理する 必要があった。初めに、巨大なシーンを使用し、CADデータを用いたためにポリゴン数が高くなった。反射光をベースとしたスタイルを用いているため、エン ジンで非常に多量のレイトレーシングを処理する必要があった。可能な限り光度の調節をうまくこなすために、動画全体でグローバルイルミネーションが使用さ れた。最後に、これも重要なことであるが、夜の街の風景を作り出すため容積効果を多く利用することが必要となった。
「幸 いなことに、レンダリングエンジンに関してCINEMA 4Dは自由度がかなり高い」とマニュエル・カサソーラ・メルクル氏は付け加えている。「超高速で安定したAdvanced Renderモジュールに加えて、多くのサードパーティーソリューションを使用することができます。中でもV-Rayは非常に優れたレイトレーサーのひと つです。この2つは相互補完的な役割を果たします。V-Rayは高度なBRDFマテリアルシステムによって、短時間で非常に優れた動画のGI(グローバル イルミネーション)を作り出し、極めてフォトリアリスティックな映像を制作することができます。一方、Advanced Renderモジュール(AR)は容積効果の処理が可能で、AO(アンビエント・オクルージョン)は非常に優れた効果を素早く演出する役割を果たします」
評 価プロセスの開始後まもなく、本プロジェクトにおけるレンダリング作業の際にはV-RayとAdvanced Renderを組み合わせて使用する方法が最もふさわしいことが明らかになった。V-Rayは大量のレイトレーシング作業を造作なく処理し、ライトキャッ シュモードを用いることで、非常に安定した多面的なグローバルイルミネーションエンジンを実行できる。一方、Advanced Renderは大容量レンダリングおよび高速のアンビエント・オクルージョンを行うことができる。V-RayはCINEMA 4Dに見事に一体化されているため、両方を補完的に利用することに何の問題もない。両パッケージともに64ビット版を使用したため、ポリゴン数が大きくて も何の問題もなかった。レンダーノードすべてに十分な物理RAMが備わっていたからである。車輪のモーションブラーをレンダリングで画像表示する際には、 Advanced Renderに基づくカスタムプラグインソリューションが利用された。
グ ローバルイルミネーションの生成プロセスを簡単にするために、撮影シーンはまずマルチパスに分割された。背景はキツネ色のキャッシュを用いてV-Rayで レンダリング表示された。このようにして、ひとつのグローバルイルミネーションパスをレンダリング表示するだけでよく、その後レンダーファームに割り当て ることができた。しかし、トラックおよびレースカーは動く物体を処理できるGI方式を用いてレンダリングを行う必要があった。ほとんどの撮影場面では、こ れらの物体を各フレーム用に生成された滑らかな光のキャッシュを用いて直接レンダリングすることでうまく作業できた。この滑らかな光のキャッシュを用いる と物影の詳細を十分描くことができないため、Advanced Renderのアンビエント・オクルージョンパスを利用し、仕上り画像において詳細が再び映し出されるようにした。逆光の場面は難しく、グローバルイルミ ネーションの点滅が見えるためにこの方法はうまくいかなかった。この場合はライトキャッシュと組み合わせ、補助エンジンとしてV-Rayのブルートフォー スモードを使用した。これによりレンダリング時間は長くなったが、常に求める結果が得られた。
すべてのレンダーレイヤは AdobeのAfter Effectsを使用して最終的に結合された。CINEMA 4Dから直接、3Dカメラおよび物体の位置を簡単に取り込むことができるため大変便利であった。そのため容積、レンズフレア、テクスチャの最終仕上げは容 易であった。モーションブラーもAdvanced Renderのモーションベクトルパスを使用して処理された。
CREDITS
Title
Vettel & Webber in Singapore - "Let's do a lap"
Client
Red Bull Media House GmbH
Production Company
Peter Clausen Film & TV Produktionsgesellschaft mbH, Munich
www.peterclausen.de
Director / Producer
Peter Clausen
Line Producer
Cecilia Trück
Animation Studio
AixSponza, Tietz Tyroller Casasola Merkle Müller GbR
www.aixsponza.com
CD / Design VFX Supervisor
Manuel Casasola Merkle
Editing / VFX Director
Christian Tyroller
Technical Director
Achim August Tietz
VFX Supervisor
Christian Stanzel
3D Lead Artist
Matthias Zabiegly
3D Operators
John Strieder
Sven Mai
Arpad Beres
Matthias Popp
Gianni Ciatola
Ingo Walde
Jan Haluszka
Christian Förg
Leonhard Akinbiyi
3D Juniors
Holger Aumüller
Tobias Szabo
Rigger
Fabian Rosenkranz
Animator
Philipp Strasser
Johnathan Ben Dor
Junior Compositor
Jan Glöckner
Production Manager
Anne Tyroller, Eva Kunze
Music
Andrej Melita
Peter Clausen